ネットとテレビ

musicaparadiso2005-11-20

先日報道されて大騒ぎになっている、建築設計事務所が建築物の耐震強度などを示す「構造計算書」を偽造していた事件なんだけど、問題が明るみになってすぐに、偽造をしたとされる一級建築士がテレビで釈明会見していた。通常、こうした専門家が偽造とか、不正とかしても本人がすぐにマスコミの前に出てくることは少ないから、ちょっと怪しいと思った。


この建築士はあっさりと、計算書の偽造を認めて、建築事務所の経営のため、施工会社からの受注を増やすために偽造を行ったと言っているのだ。けれど、本当にそうだろうか。100%事実は違うだろう。


耐震強度の計算は、建築士にしか出来ないとしたって、計算業務の報酬なんて、きっとたかがしれてる。それに、こうして偽造したことが明るみに出たときのコスト、つまり刑事事件になって逮捕されたり、民事で損害賠償請求されたり、免許剥奪になったりしたときのことを考えたら、フツーの感覚では、こんな不正に手を貸すのは相当バカに違いない。


よくわからないけど、耐震強度の計算で何が分かるのかっていうと、建物の設計図面を見てその建物が予想される災害に耐えうるかどうかお墨付きを与える書類でしょ?だから、この書類でOKとなれば、その通りに建築してもいいってことになる。だから、かつて阪神大震災の時に崩壊した高速道路のように、鉄筋がきちんと入っていない建築物は、実際の強度と計算上の強度にギャップが生じるわけだ。


そして、なんでこんなインチキをするかっていうと、丈夫な構造にするのはお金がかかるからだ。鉄筋の本数は少なければ少ないほど、手間もカネも浮く。不動産の原価が安くつくから、安く売っても利益が出る。建築士がはした金欲しさに手を染めるような、そんなスケールの小さい問題じゃないのだ。実際、報道されているように震度5地震で崩壊の危険があるホテルやマンションに今も多くの人が住んでいる。これは殺人事件だ。



なんてこともいってみつつ、今日新聞を見ていたら、アメリカではネットと放送の融合が急速に進んでいる、らしい。らしい、というのは、ワーナーはAOLと、ディズニーはiTunesで、ユニバーサルはワールドメディアとそれぞれくんで、コンテンツ供給をしているんだけど、アメリカって今でもケーブルテレビの国のはずだ。アメリカにいるセンパイもネットの速度が遅いって言っているし、カナダにいる友達もネットはあんまり普及して無くてケーブルテレビはどこの家でもあるって言ってたけどなあ。



しかし、報道のようにネットのブロードバンド化は進んでいるようで、18歳以上のネット接続者のうちブロードバンド利用者が半数を超えたらしい。きっと、地域によってムラがあるんだろう。なにしろ東西南北に無駄に広い国だから、日本や韓国のようにインフラが整うには、時間もコストもかかるのだろう。


ネットと放送って言うと必ず問題になる、と言われているのが「著作権」の問題。ネット企業と組んでコンテンツを供給する映画会社やABCやNBCのようなテレビ局が、所有するコンテンツをなんでも流せるのか、ということなんだけど、アメリカは日本のように著作権絡みのややこしい問題は生じない。なぜかというと、アメリカではコンテンツの再利用(再放送、パッケージ販売、マーチャンダイジングなど)が放送会社か製作者に一任されていることが多いからだ。



日本ではブロードバンド化はここ1、2年で急速に進んでいるけど、肝心のコンテンツの供給が追いついていない。どこのブリードバンド放送のサイトも、とりあえずって感じでお茶を濁してるんだけど、流したいと思っても、タレント事務所の許可がタレントごとに必要だし、死んじゃったタレントはどうするのかとか、ドラマでどうしても一人だけ許可をもらえないタレントがいるためにネット放送できないとか、劇伴などサントラの著作権を作曲家ごとにもらわなきゃいけないとか、許可を取らないといけないモノが多すぎて、流すまでにコストがかかりすぎる。なので、なかなかネットで放送というわけにいかないのだ。



でも、これってよく考えたら「著作権」の問題なのだろうか。違う、単に「契約」の問題だ。だって、アメリカのように制作段階でコンテンツの再利用について著作権の許可をとっておけば、なんの問題も生じないのだ。日本でも、最近はネット放送も念頭にこうしたことを盛り込んで制作してる番組も多いけど、著作権について日本は業界的になあなあでやってきた歴史が長い。たとえば「機動戦士ガンダム」のキャラクターグッズ販売ではテレビ会社とアニメの制作会社が訴訟沙汰になっていたし、「宇宙戦艦ヤマト」だって突き詰めたら著作権の所在をプロデューサーと漫画家の間で明確にしてこなかったことが原因なのだ。



アメリカは訴訟社会と言われるけど、予想されるトラブルについてはあらかじめルールを決めておくっていう考えが徹底してるから、著作権がどうやらお金になるって気がついた人がどこかにいて、その権利を管理するっていうビジネスを始めたのだろう。でも、目に見えない権利っていうのを売買する感覚って、相当社会が成熟しないと無理だ。だって、「はい、これ100万円」って言われて手渡されたものが紙きれだったり、酷いときは何もナイんだから、信用するためには想像力がいる。



というわけで、日本でもアメリカでもネットがテレビを超える日はそう遠くない、って思う今日この頃なのだ。