ユーミンの涙

musicaparadiso2005-12-26

すっかり寒くなって、外に出ると冷たい風が顔に当たって年の暮れを感じさせるようになった。年の暮れって言うとなぜか分からないけど、昔から古本屋に行きたくなる。


デパートのなかの本屋や、ジュンク堂紀伊国屋はいつ行っても綺麗でエアコンも効いていて、ちっとも季節感はないけど、街のちっぽけな古本屋は人気もなくて、哀愁と埃とカビた本の匂いが詰まっていて、季節は秋か冬を感じさせるたたずまいだ。そして、経費削減と店主が寒がりの年寄りだから夏はエアコンの効きも弱いので、居心地も悪い。だから寒くなると、家までの寄り道で、体も温まるしコーヒーもごちそうしてくれるのでオヤジの顔を見に行ったりしてる。今日は、大掃除の洗剤を買いに行ったついでに、久しぶりに近況報告も兼ねて立ち寄ってみた。


大体本屋のオヤジは偏屈で頑固で物知りが多い。けど、その偏屈さと頑固さのせいで、物知りな一面を見せたがらないし、話し好きなくせに人見知りな人が多い。この両極端な人間性が好きだ。だから、いったん仲良くなるとたまに顔を出せば、値付けのためにレジの前で引き取った古本の山に顔を埋めている顔を上げて、人懐っこそうな笑顔を見せてくれる。


それで、今日は本当に久しぶりに寄ったので、レジの前でコーヒーを飲みタバコを吸いながら、今年のおれの七転八倒ぶりを話して、オヤジ相手に自分の「行く年来る年」をやってみた今日この頃、みなさんの今年はいかがな感じでしたか?


そうそう、以前小田和正の「クリスマスの約束」の話を書いたけど、今年はとんでもない内容で、とてもじゃないけど書く気になれないんだけど、少しだけ書こうと思う。大体からしオフコース解散後の小田和正はドラマやCMのタイアップばかりの仕事ばかりで、そりゃヒットもするだろうけど、心に残るような曲を作ってるワケじゃない。オフコースの時の「メディアに毒されない」、「レコード会社やスポンサーの言いなりにならない」っていう青臭いんだけど高潔なプライドは一体どこにいっちゃんだろうって言うくらいの変節ぶりに失望してるファンも多いだろう。少なくとも、鈴木康博がいた頃は自分たちのやりたいことと、商業的な成功を第一に考えてるマネジメントとのはざまで葛藤していた小田和正がいたはずだけど、今の彼には微塵も感じられない。


そんなとんでもなかった「クリスマスの約束」の放送内容はといえばスポンサーのナントカ生命にいいように編集されちゃったツアーの合間のオフショットやら、今までにステージに呼んだゲストとの箱庭的なしゃべりがインサートされたテキトーな内容に、妙な走り方だけは昔から変わってない小田の姿が印象に残るだけの番組だった。


極めつけは、武道館で収録されたコンサート当日、観客にも知らされていなかったサプライズ・ゲストにあの、中居正広が呼ばれたってことだ。「オレはメディアに毒されない」って散々公言していたのに、その権化のようなバカタレントをゲストに呼ぶなんてショックで、そのおかげで食べかけてた小川軒のレーズンウィッチのレーズンが鼻から飛び出そうになった、だけど、せっかく手に入れた世界一おいしいと言われている小川軒のレーズンウィッチを、こんなことで台無しにするわけにはいかないので、必死で飲み込んだ。


もうこれでさよなら、だ。ほんとうに小田和正にはがっかりだよ!(By 桜塚やっくん)だ。


それに比べ、同じ頃に放送していたユーミンの番組は良かった。その番組は「オールナイトニッポン」のテレビ版と言うことでフジでやっていたんだけど、今もFMでDJしてるユーミンらしく、地に足着いた感じのゆったりとした番組だった。ジャリタレごときに浮き足立って「オレが一声かければsmapだって呼べるんだぜ」みたいないやらしさを見せつけていた小田和正の品のなさとは格が違う。


ユーミンは誰を相手にしようと動じないところがいい。ゲストには浜崎あゆみ平井堅なんかが出てユーミンの曲を共演していたみたいだけど、両方ともあまり興味のないオレなのでよく覚えてない。だけど、だけど、ゲストにaikoが出ていて、この子にもあんまり興味はないんだけど、ユーミンの「ひこうき雲」を共演するっていうことになってユーミンが「なんでこの曲を選んでくれたの?」ってaikoに聞いたときの話だ。


「親戚のお兄ちゃんがいて、病気で入院していたみたいで気がついたらホスピスに移っていた。そのときに、そんなに悪かったんだってびっくりして、お見舞いに行ったときにユーミンのこの曲が病室に流れていたんです」って言って「それで、私もひこうき雲はよく歌うんですけど、その親戚のお兄ちゃんのことを思いながら歌います。いつかユーミンに会えたらこのことを伝えようと思っていたんです」そう答えたaikoの目からは涙があふれていた。オレもついもらい泣きしちゃってテレビを見たらユーミンも「うん、うん」ってaikoの話にうなずきながら大粒の涙を流していた。


その「うん、うん」ってあの低いドスのきいた声でうなずきながら、自分の年の半分以下にもいかないような若い子の話に心を揺さぶられて泣いているユーミンがすごく素敵だった。


ちなみに「ひこうき雲」は知ってる人は知ってると思うけど、若くして死んでしまった子を歌った歌だ。ユーミンのデビューアルバムに収録されてる名曲で、天才少女と呼ばれた頃の十代で作った歌なんだけど、大切な人の死に対する気持ちをaikoはこの歌に重ねて歌っているんだろう。そのaikoの気持ちに共感したユーミンの涙をこの「ひこうき雲」を聞くたびに思い出してしまいそうな今日この頃なのだ。